四季彩辞典ー夏 8月

8月 橙:黄丹(ミカドオレンジ)

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  色彩を研究する機関では、頻繁に嗜好色(色の好み)の調査を行う。地域別、年齢 別、男女別など様々なジャンルを研究対象としているが、その中で橙は最下位に位置することが最も多い色である。ところが夏の盛りになると、不思議と人気が 高くなる。夏の眩しさと暑さをポジティブに楽しもう、という気持ちの表れだろうか。確かに橙は、光の黄色と炎の赤の両方の要素を持つ色である。また、他の 色相に比べ肌に近い色みであるためか、肌色との不調和(中途半端に近い色と、中途半端に離れた色は不調和を起こすという色彩論がある)が起こり、顔色を黒 くくすんで見せるからかもしれない。この現象は、夏以外の季節ではあまり歓迎されないだろう。

 本来「橙:オレンジ」は柑橘類の果実の名前であるが、赤や青の色相名と同様に赤と黄の中間の色みを指す名称としても用いられている。色名は、前述のイメージ挽回のために高貴なものを紹介のものを紹介する。黄丹は紅花と梔子で染色される色で、718年に皇太子の礼服の色として定められて以来、現在も受け継がれている。

 タイの仏教僧の衣に見られる橙色はサフランの色である。橙は、アジア以外の国では高貴な色とされることはなかったために、欧米人にとって皇室や宗教の場 で橙が使われるのが東洋の神秘と感じられたのかもしれない。「ミカド」が色名として色彩辞典に登場する数年前に、イギリスで日本の江戸時代を舞台にしたオ ペレッタ「ミカド」が初演されたことが、色名の由来に関係していると思われる。「ミカド」は「蝶々夫人」初演の20年前の1885年に初演されており、大 変ヒットし現在でも人気の衰えない喜劇である。目立って橙色が演出に使われている印象はないが、やはり前述の通り東洋の神秘の象徴であったのだろう。 そ の後「ミカド」色は、「ミカドオレンジ(黄丹)」と「ミカドブラウン(黄櫨染)に分けられた。欧米向けに日本らしさをアピールする際に、橙色を高貴で神秘 的なイメージにアレンジすると、われわれが想像する以上に効果的かもしれない。和紙や上質の織物など素材を厳選しなければならないことはいうまでもない。

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