6月 青みの紫:葵色(モーヴ)
梅雨の暗くじめじめした気候は明るく爽やかな色で気分転換したいところ だが、実際にこの季節がやってくると不思議とグレイがかった色や紫系の色に心が落ち着く。紫は、可視光線(太陽からの電磁波の中で、人が見ることのできる 範囲の光線)の中で最も波長の短い色であり、化学作用の強い紫外線に隣接している(紫外線になると人には見えなくなる)それを本能的に知ってか知らずか傷 病の時に人は紫を求めることがある。病気の人が紫の鉢巻きをしたり、紫色の布団は長生きをするとか、ちょんまげの月代の剃りあとに紫の布を当てると剃刀ま けを防ぐ、などという時代劇などで見られる民間療法が昔から伝えられている。前述のように、この時期に紫を求めてしまうのは、不衛生になりがちな気候で、 気分も沈みがちで心身ともに弱っているからだろう。無理に自らを奮い立たせずに、暑い季節の到来前に体調を整えておこうというメッセージかもしれない。
葵色は、平安時代の人々が好んで名付けた紫系の色の一つである。この時期の襲の色目(十二単の色の組み合わせ)にもしばしば登場する。洋名のモーヴは、 1865年にイギリスの化学生パーキンが、コールタールからキニーネを合成しようとして偶然得た、人類初の人工染料である。フランス語の葵を意味する色名 であるが、一般的には紫みのピンクまでの様々な紫を表す色名として親しまれている。