9月 暗い赤紫:葡萄色(バーガンディー)
こよみの上では秋だが、実際には強い陽射しと暑さが残っている。その中で秋の到来を感じさせてくれるのは、秋の実りである。本来、紫色は食物にはあまり見られず、食欲を後退される色なのだが、焦げ茶にも似た深い紫色は例外のようだ。
葡萄色は、エビカズラという山ぶどうの熟した実の色に由来しているが、いつの間にか伊勢海老の殻の色と混同されてしまい、現在では「海老色」と書くのも 間違いではなくなった。「バーガンディー」は、フランス語ではブルゴーニュ。ボルドーなどと同様、ワインの産地の名がそのまま色名になっている。「ワイン レッド」と一括する方がわかりやすいかもしれない。
えび色とえび茶の違いは厳密なものではなく、暗い赤紫でも茶色を感じさせる要素が強くなると、えび茶とよぶようである。海老茶というと、明治時代の女子 学生の袴を連想する。文明開化で、高等教育を受けるようになった女学生や女教師の間で海老茶の袴が流行した。それまでは巫女以外の女性が袴をはくことがな かったことや、女性が高等教育を受けること自体珍しかったために、知的な女性の代表である紫式部を引き合いにして、「海老茶式部」と揶揄まじりの通称が生 まれたほどだ。紫は人によって好き嫌いが分かれる色である。
紫のもつイメージを問うと、「上品・下品」「神秘・不安」などと他の色に比べて正反対の答が返ってくることが多い不思議な色だ。商品企画では、食品関係、男性用品、子供用品には不向きな色であるが、紫の中でもこの葡萄色は比較的使いやすい色である。紫というより落ち着いた赤、と見なされるのだろうか。 確かに“海老茶式部”だけでなく、早稲田大学やハーバード大学のシンボルカラーにもなっている。